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信太妻の話 - 折口 信夫
  • ...かつた為である。 このはなさくや媛や、いはなが媛の名が、単に名たるに止らないで、生命のまじなひに関聯してゐたのを見ると、木の花や、巌石をとうてむとして見た俤が、見えぬでもない。寿詞(ヨゴト)・祝詞に、植物や、鉱物によつて、長寿を予祝する修辞法の発達して居るのも、単純な譬喩でなく、やはり大山祇神(オホヤマツミノカミ)がした様なとうてむによるまじなひから起つて居るのかも知れない。 神道の上で、太陽を祖先神と考へる様になつたのは、一つや二つの原因からではない。が、大和を征服した団体が、日光に向ふ(即、抗(ムカ)ふ)とか、背負ふとか言ふ事を、大問題にしたと言ふ伝へも、祖先神だからと言ふ処に中心が置...
病院風景 - 寺田 寅彦
  • ...園の仲間に比べるとここのは死刑囚であろう。  動物をいびり殺した学士が博士になる。  殺される動物は、ほがらかな顔をしている。  またある日。  屋上へのぼる。階上に洗濯室が二つ。鼠色の制服を着た雑使婦の婆さんが洗濯している。どこかミレーの絵の鼠色の気分である。屋上の砂利の上に関東八州の青空。風が強くて干し物がいくつか砂利の上に落ちている。清らかになまめかしい白足袋も一足落ちている。北側の胸壁にもたれて見下ろす。巡査が一人道側へ立って警戒している。何の警戒か分からぬ。しかし何かを警戒していることは分かる。  H首相が入院していた時の物々しい警戒を思い出す。悪いことをしないものは恐ろし...
神道に現れた民族論理 - 折口 信夫
  • ...天孫降臨の最初のお后このはなのさくや媛だけは、おほやまつみの娘であるけれど、其以後の后妃は、垂仁帝あたりまで、大抵、水神の娘である。さうして、さくや媛すら「水の女」の要素を十分に持つてゐられた事が窺へるのである。要するに、出雲系の神は皆「水の神」又は「水の女」で、試みに、すさのを・おほくにぬしの系統を辿つて行くと、大抵水神であることを発見する。とにかく、代々の后妃に出雲系、随つて、水神系の多い事は、事実であつて、此で見ると、代々の妃嬪は古く皆、水神の娘の資格で、宮廷に上られ、更に、出雲系の女の形式を以て、仕へ始められたものといふ事が、出来さうなのである。 此に関聯して、一つ不思議なことがある...
藤棚の陰から - 寺田 寅彦
  • ...人の心持ちは、やはりこのはき物や上着を脱ぎそろえる心持ちの延長ではないかとも思われるのである。  結局はやはり「生きたい」のである。生きるための最後の手段が死だという錯覚に襲われるものと見える。自殺流行の一つの原因としては、やはり宗教の没落も数えられるかもしれない。 (昭和九年九月、中央公論) 底本:「寺田寅彦随筆集 第四巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店    1948(昭和23)年5月15日第1刷発行    1963(昭和38)年5月16日第20刷改版発行    1997(平成9)年6月13日第65刷発行 入力:(株)モモ 校正:かとうかおり 2003年4月9...
註釈与謝野寛全集 - 与謝野 晶子
  • ...くは若き木花咲耶姫(このはなさくやひめ)わが心をも花にしたまへ  或る音楽者が短歌の作曲をして見たいと申込まれた時に、作者は幾首かの歌を呈供したが、是れもその中の一首であつた。半切などにもよく故人はこの歌を書いた。春の神を呼びかけて云ふのにふさはしい快い調子の歌の出来たのを故人は嬉しく思つて居た。木の花を統べ給ふ情知りのさくや姫よ、自分の心にも花を咲き満たせ給へとかう歌つた作者は青春期になほ籍を置くもののやうに恍惚としてゐる。派手な恋の勇者にもならうと望んでゐる。 手のひらを力士の如くひろげたるシヤボテンの樹に積るしら雪  唯(た)だ大きいだけでなく、厚味も豊かな相撲力士の拡...

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