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2009年12月4日 14:46:06
2009年12月4日 14:46:07
2010年01月7日 20:51:13
2010年01月7日 20:55:00

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祇園の枝垂桜 - 九鬼 周造
  • ...い。ローマやナポリでアフロディテの大理石像の観照に耽(ふけ)った時とまるで同じような気持である。炎々と燃えているかがり火も美の神を祭っているとしか思えない。  あたりの料亭や茶店を醜悪と見る人があるかも知れないが、私はそうは感じない。この美の神のまわりのものは私にはすべてが美で、すべてが善である。酔漢が一升徳利を抱(かか)えて暴れているのもいい。群集からこぼれ出て路端に傍若無人に立小便をしている男も見逃してやりたい。どんな狂態を演じても、どんな無軌道に振舞っても、この桜の前ならばあながち悪くはない。  今年は三日ばかり続けて散歩がてらに行ってみたが、いつもまだ早過ぎた。三日目には二、三...
環礁 ――ミクロネシヤ巡島記抄―― - 中島 敦
  • ...下で、薔薇色の泡からアフロディテが生れかかつてゐる。何處か紺碧の波の間から、甘美なサイレンの歌が賢いイタカ人(びと)の王を誘惑しようとしてゐる。……いけない! 又しても亡靈だ。文學、それも歐羅巴文學とやらいふものの蒼ざめた幽靈だ。  舌打をしながら私は立上る。ほろ苦(にが)いものが暫くの間心の隅に殘つてゐる。  濕つた渚に踏入ると、無數のやどかり共、青と赤の玩具のやうな小蟹共が一齊に逃げ出す。五寸程芽の出掛かつた椰子の實の落ちてゐるのを蹴飛ばすと、水の中にころげ入つてボチヤンと音を立てる。  さういへば、昨夜、奇妙なことがあつた。島民家屋の丸竹を竝べた床(ゆか)の上に、薄いタコの葉の呉蓙...
環礁 ――ミクロネシヤ巡島記抄―― - 中島 敦
  • ...薇(ばら)色の泡からアフロディテが生れかかっている。何処か紺碧の波の間から、甘美なサイレンの歌が賢いイタカ人(びと)の王を誘惑しようとしている。……いけない! またしても亡霊だ。文学、それも欧羅巴文学とやらいうものの蒼ざめた幽霊だ。  舌打をしながら私は立上る。ほろ苦いものがしばらくの間心の隅に残っている。  湿った渚に踏入ると、無数のやどかりども、青と赤の玩具のような小蟹どもが一斉に逃げ出す。五寸ほど芽の出掛かった椰子の実の落ちているのを蹴飛ばすと、水の中にころげ入ってボチャンと音を立てる。  そういえば、昨夜、奇妙なことがあった。島民家屋の丸竹を並べた床(ゆか)の上に、薄いタコの葉の...
桜の樹の下には - 梶井 基次郎
  • ...らも、薄羽かげらふがアフロデイツトのやうに生れて来て、渓の空をめがけて舞ひ上つてゆくのが見えた。お前も知つてゐるとほり、彼等はそこで美しい結婚をするのだ。暫らく歩いてゐると、俺は変なものに出喰はした。それは渓の水が乾いた磧(かはら)へ、小さい水溜を残してゐる、その水のなかだつた。思ひがけない石油を流したやうな光彩が、一面に浮いてゐるのだ。お前はそれを何だつたと思ふ。それは何万匹とも数の知れない、薄羽かげらふの屍体だつたのだ。隙間なく水の面を被つてゐる、彼等のかさなりあつた翅(はね)が、光にちぢれて油のやうな光彩を流してゐるのだ。そこが、産卵を終つた彼等の墓場だつたのだ。  俺はそれを見たとき...
桜の樹の下には - 梶井 基次郎
  • ...らも、薄羽かげろうがアフロディットのように生まれて来て、溪の空をめがけて舞い上がってゆくのが見えた。おまえも知っているとおり、彼らはそこで美しい結婚をするのだ。しばらく歩いていると、俺は変なものに出喰(でく)わした。それは溪の水が乾いた磧(かわら)へ、小さい水溜を残している、その水のなかだった。思いがけない石油を流したような光彩が、一面に浮いているのだ。おまえはそれを何だったと思う。それは何万匹とも数の知れない、薄羽かげろうの屍体だったのだ。隙間なく水の面を被っている、彼らのかさなりあった翅(はね)が、光にちぢれて油のような光彩を流しているのだ。そこが、産卵を終わった彼らの墓場だったのだ。 ...


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