奈良県

 

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2010年01月3日 23:16:13
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鬼涙村 - 牧野 信一
  • ...「この苗字は私の村(奈良県下)では軒並なんですが――」と彼はその時も、ふところの中に顔を埋めるようにして呟(つぶや)いた。「苗字と名前とがまるで拵(こしら)えものの冗談のように際(きわ)どく釣合っているのが、私は無性に恥しいんです。それにどうもそれは私にとってはいろいろと縁起でもない、これまでのことが……」  彼はわけもなく恐縮して是非とも忘れて欲しいなどと手を合せたりする始末だったのである。そんな想いなどは想像もつかなかったが、私は難なく忘れて口にした験(ため)しもなかったのに、ツマラヌ連想から不意とその時、人の名前というほどの意味もなく、その文字面を思い浮べたらしかったのである。  そ...
鬼涙村 - 牧野 信一
  • ...「この苗字は私の村(奈良県下)では軒並なんですが――」と彼はその時も、ふところの中に顔を埋めるやうにして呟いだ。「苗字と名前とが恰で拵へものゝ戯談のやうに際どく釣合つてゐるのが、私は無性に恥しいんです。それに何うもそれは私にとつてはいろいろと縁起でもない、これまでのことが……」  彼はわけもなく恐縮して是非とも忘れて欲しいなどと手を合せたりする始末だつたのである。そんな想ひなどは想像もつかなかつたが、私は難なく忘れて口にした験もなかつたのに、ツマラヌ連想から不意とその時、人の名前といふほどの意味もなく、その文字面を思ひ浮べたらしかつたのである。  それはさうと、その頃私の身には飛んだ災難が...
私の書斎 - 土田 杏村
  • ...版を大分集めた。昨日奈良県の史蹟名勝天然記念物調査報告を第一冊からずつと揃ひで買つたがこれは嬉しかつた。書籍目録となると全く餓鬼のやうにして中を捜すのである。  近頃は全集物が多く出るので何より有り難い。買へる限りは買ふことにしてゐる。有力なものは大抵買ひ集めた。下らない全集物は室に邪魔になるからたとへ一円本でも買はうとはしない。今では全く書物の置き場所が苦になつてゐるのである。自分は東京へ移転しようかと思ふ時もあるが、さう考へて何より困るのはこれらの書物の始末だ。私などの這入れる借家では、ちょつとこれだけの書物を置く場所がない。  雑誌も沢山買つてゐるが、又随分沢山貰つてもゐる。だから有...
死体の匂い - 田中 貢太郎
  • ...伴れて往った。そこは奈良県の寄宿舎であった。私はそれから足に怪我をしている客を負ぶって伴れて来たが、後の激震が気がかりであるから、地震の静まるまでそこにいることに定めて、家へ入って往って筵(むしろ)を持って来た。付近の者も続続と避難して来た。私はまた煙草を買い蝋燭を買って来た。酒屋へサイダーを取りに往った時、潰れた家の簷を破っている者があるので、それに手を貸して瓦を剥いだ。その屋根の下からは若い女とその夫らしい頬髭の延びた黄いろな顔をした男とが出て来た。  私はその一方で藤坂をあがって、その近くに住んでいる友人の家へと往った。大塚行きの電車の線路に沿うた両側の家では、皆線路の上に避難していた...
変災序記 - 田中 貢太郎
  • ...に見えていた。それは奈良県の寄宿舎であった。寄宿舎の右寄りの上にも二軒の二階家が涼しそうな顔を見せていた。  それはもう十一時を過ぎていた。私は胃の勢いであろう物が喫いたくなったので、早い昼飯をこしらえさしてそれを喫い、裏崖に向った窓の下に据えた机の前に往って、泉筆を持って書きさしの原稿紙に三四字書いたところで、家内があがって来て来客を知らした。 「ワチっていう方が見えました」  私はすぐ大町桂月翁の許に寄宿していたことのある和智君ではないかと思った。で、家内に言いつけてあげてみると、果してその和智君であった。和智君は痩せて背のひょろ長い体に洗い晒(ざら)した浴衣を着ていた。私は和智君と...


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