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器楽的幻覚 - 梶井 基次郎
  • ...的な技巧で豊富な数の楽曲を冬にかけて演奏して行ったことがあった。そのなかには独逸(ドイツ)の古典的な曲目もあったが、これまで噂ばかりで稀にしか聴けなかった多くの仏蘭西系統の作品が齎(もた)らされていた。私が聴いたのは何週間にもわたる六回の連続音楽会であったが、それはホテルのホールが会場だったので聴衆も少なく、そのため静かなこんもりした感じのなかで聴くことができた。回数を積むにつれて私は会場にも、周囲の聴衆の頭や横顔の恰好にも慣れて、教室へ出るような親しさを感じた。そしてそのような制度の音楽会を好もしく思った。  その終わりに近いあるアーベントのことだった。その日私はいつもにない落ちつきと頭の...
南蛮寺門前 - 木下 杢太郎
  • ...に聖頌を唱ふ。門内の楽曲、厳粛豊麗なる寺院楽律よりやうやう神秘奇峭なる近世的問題楽曲に移る。四下やうやうさわがしくなる。 第一の人 あれ伴天連(ばてれん)が妖術を始めたぞ。 第二の人 何ぢや妖術ぢやてや。 舞台やうやく赤くかすみ来り、後景なる寺の石垣|模糊(もこ)として遠く退き、人々の形も朦朧として定かならず。楽音の旋律更に激越想壮の度を加へ、之に諧和せざる梵音はた三絃の声も、囂々(がうがう)として亦その中に雑(ま)じる。 乗円 遠離一切顛倒夢想(ゑんりいつさいてんだうむさう)。 伊留満喜三郎 ろうだつと、どみのむ、おむねす、でんと。 乗円 究竟涅槃(くきやうね...
映画芸術 - 寺田 寅彦
  • ...とえばソナタのごとき楽曲の構造に類する。この比較についてはかつて雑誌「渋柿(しぶがき)」誌上で細論したからここには略するが、それと全く同じことが映画の律動的編成についても言われるのである。そうして序破急と言いあるいは起承転結と称する東洋的モンタージュ手法がことごとく映画編集の律動的原理の中にその同型(ファクシミレ)を見いだすのである。  要するにこれらのモンタージュの要訣(ようけつ)は、二つの心像の識閾(しきいき)の下に隠れた潜在意識的な領域の触接作用によってそこに二つのものの「化合物」にも比較さるべき新しいものを生ずるということである。  識閾の上層だけでつながったものは、つまり一つの静...
映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21]) - 寺田 寅彦
  • ...ーフをもって貫かせた楽曲的構成にあると思われる。そうしてその単純明白なモチーフが非常に多面的立体的に取り扱われているために、同じものの繰り返しが少しの倦怠(けんたい)を感ぜしめないのみならず、一歩一歩と高調する戯曲的内容を導いて最後の最頂点に達するまでに観客の注意の弛緩(しかん)を許さないのであろう。  この映画を見て非常におもしろいという人とちっともおもしろくないという人と二通りあるようである。これはこの二人の人の有声映画というものに対する心的態度と要求との根本的差違を反映する現象である。将来の有声映画製作者にとってはこの二つの対蹠的(たいせきてき)な現象の分析的研究が必要となるであろう。...
踊る線条 - 寺田 寅彦
  • ...タンツ」というふうに楽曲の名前が並べてあるだけで、いったいどんなものを見せられるか全く見当がつかない。  さて、映写が始まって音楽が始まると同時に、暗いスクリーンの上にいろいろの形をした光の斑点(はんてん)や線条が順次に現われて、それがいろいろ入り乱れた運動をするのであるが、全く初めての経験であるからただ一度見ただけでは到底はっきりした記憶などは残りようがない。しかし都合六編だけ通覧したあとでの印象は、実に思いのほかにおもしろいものであったということである。  たぶんは退屈で、しいて理屈をつけて見ているうちに頭が痛くなるようなものではないかと思っていた予想に反して、ただぼんやり見ているだけ...


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