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2010年02月6日 01:56:11
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月の夜がたり - 岡本 綺堂
  • ...して祭られているのは少ないようだ。そう判ってみると、職人たちも少し気味が悪くなった。しかし梶井の父というのはいわゆる文明開化の人であったから、ただ一笑に付したばかりで、その書き物も黒髪もそこらに燃えている焚火のなかへ投げ込ませようとしたのを、細君は女だけにまず遮(さえぎ)った。それから社を取りくずすと、縁の下には一匹の灰色の蛇がわだかまっていて、人々はあれあれといううちに、たちまち藪のなかへ姿をかくしてしまった。  蛇はそれぎり行くえ不明になったが、かの書きものと黒髪は残っている。梶井の母はそれを自分の寺へ送って、回向(えこう)をした上で墓地の隅に葬ってもらうことにしたいと言っていた。梶井が...
メーデーに歌う - 宮本 百合子
  • ...いる人の数はいたって少ない。東京の人口が、もとからみると減っている。それもあるが、しっかりと職場についている勤労者は、みんな組合の行進に加わってしまっているからなのでもある。  メーデーの日、モスクワの街々は、かえって深閑としている。あらゆる人群は、モスクワの中央部へ、赤い広場へと注ぎこまれて、すこし離れた街筋は、人気ない五月の空に、街頭ラジオが溢れだす音楽と大群集の歓呼の声をまいている。夕方、行進が解散になり、赤いプラカードの林が陽気な歌にゆれながらこの地区に戻って来る迄、モスクワ中の感動は、赤い広場という一つの心臓のぐるりに熱く燃えてあつめられているのである。  益々元気旺盛な...
百姓弥之助の話 01 第一冊 植民地の巻 - 中里 介山
  • ...りし過ぎてねばり気が少ない、もう一つの平山種はきびの悪い程うまかった、うまいと云った所で水稲とは比較になるべき筈のものではないが、普通陸稲のさらさらしたものにくらべて、きびの悪い程ねちねちした味いがある、然し麦となると本場である、小麦も大麦もどちらも本格で、小麦は挽(ひ)かせて、うどんに造ったり餅に焼いたりするが、色こそ黒いけれども、その持味は公設市場で売るメリケン粉の類ではない、小麦本来の持味が充分で同時に営養価も高い事が味わえる、大麦に至っては主として碾割(ひきわり)にして食用に供するのとこの頃は押麦にしてその儘飯に炊くのとである、碾割の方は桝目(ますめ)にして格別殖えも減りもしないが、押...
半七捕物帳 04 湯屋の二階 - 岡本 綺堂
  • ...話というのはまことに少ない。しかし私どもでも遣(や)り損じは度々ありました。われわれだって神様じゃありませんから、なにから何まで見透しというわけには行きません。したがって見込み違いもあれば、捕り損じもあります。つまり一種の喜劇ですね。いつも手柄話ばかりしていますから、きょうはわたくしが遣り損じた懺悔話をしましょう。今かんがえると実にばかばかしいお話ですがね」  文久三年正月の門松も取れて、俗に六日年越しという日の暮れ方に、熊蔵という手先が神田三河町の半七の家(うち)へ顔を出した。熊蔵は愛宕(あたご)下で湯屋を開いていたので、仲間内では湯屋熊と呼ばれていた。彼はよほど粗忽(そそっ)かしい男...
半七捕物帳 07 奥女中 - 岡本 綺堂
  • ...乗せられた。人通りの少ないところを選んで浜町河岸まで揺られてくると、石置き場のまえで彼女を乗物からおろして、空(から)の乗物をかついだ男達は逃げるように何処へか立ち去った。  お蝶は狐が落ちた人のようにぼんやりと突っ立っていたが、急にまた何だか怖くなって一散にかけ出して、家へ駈け込んで母の顔を見るまでは、彼女もまだ半分は夢のような心持であった。狐に化かされたのだろうとお亀は云ったが、ふところに入れて来た目録は木の葉ではなかった。迷子札(まいごふだ)のような新しい小判がまさに十枚はいっていた。 「まあ、十両あるよ」と、お亀は眼をまるくして驚いた。いくら正直でも慾のない人間はすくない。この頃の...


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