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2010年01月2日 18:56:07
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村からの娘 - 宮本 百合子
  • ...の秋を、みのりの秋と楽しく期待出来た人間は恐らく一人もなかったであろうと思う。東北地方の飢饉は、二三年前からのことで、問題は天候ばかりにはないことが既に誰にでも理解されている。同じ空の下でも、地主の田圃の稲の穂は実の重さで垂れたのである。  秋田の方の故郷で暮している鈴木清というプロレタリア作家の『進歩』に発表された通信は、東京の愛国婦人会や何かが、まるで農民が道徳をさえわきまえぬ者で娘を売るように口やかましくほんの一部の身売り防止事業などに世人の注意をあつめ、窮乏の真の原因とその徹底した打開策とを大衆の目から逸(そ)らさせようとしていることに立腹を示したものであった。  鈴木さんばかりが...
人間失格 - 太宰 治
  • ...戯場みたいに、複雑に楽しく、ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。しかも、かなり永い間そう思っていたのです。ブリッジの上ったり降りたりは、自分にはむしろ、ずいぶん垢抜(あかぬ)けのした遊戯で、それは鉄道のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、のちにそれはただ旅客が線路をまたぎ越えるための頗る実利的な階段に過ぎないのを発見して、にわかに興が覚めました。  また、自分は子供の頃、絵本で地下鉄道というものを見て、これもやはり、実利的な必要から案出せられたものではなく、地上の車に乗るよりは、地下の車に乗ったほうが風がわりで面白い遊...
葉桜と魔笛 - 太宰 治
  • ...て、私まで、なんだか楽しく浮き浮きして来て、ときどきは、あまりの他愛なさに、ひとりでくすくす笑ってしまって、おしまいには自分自身にさえ、広い大きな世界がひらけて来るような気がいたしました。  私も、まだそのころは二十になったばかりで、若い女としての口には言えぬ苦しみも、いろいろあったのでございます。三十通あまりの、その手紙を、まるで谷川が流れ走るような感じで、ぐんぐん読んでいって、去年の秋の、最後の一通の手紙を、読みかけて、思わず立ちあがってしまいました。雷電に打たれたときの気持って、あんなものかも知れませぬ。のけぞるほどに、ぎょっと致しました。妹たちの恋愛は、心だけのものではなかったのです...
ジャン・クリストフ - ロラン ロマン
  • ...生(い)きるように、楽しく生きるように頑固(がんこ)に出来上ってる、丈夫(じょうぶ)な騒々(そうぞう)しい荒(あら)っぽいクラフト家(け)の人たちの間にあって、いわば人生の外側(そとがわ)か端(はし)っこにうち捨てられてるこの弱い善良(ぜんりょう)な二人(ふたり)は、今までお互に一|言(こと)も口には出(だ)さなかったが、互(たがい)に理解(りかい)しあい憐(あわ)れみあっていた。  クリストフは子供(こども)によく見られる思いやりのない軽率(けいそつ)さで、父や祖父(そふ)の真似(まね)をして、この小さい行商人(ぎょうしょうにん)をばかにしていた。おかしな玩具(がんぐ)かなんかのように彼を...
犯人 - 太宰 治
  • ...キイを飲み、しだいに楽しく酔って行った。午後十時ちかく、部屋の電燈がパッとついたが、しかし、その時にはもう、電燈の光も、豆ランプのほのかな光さえ、鶴には必要でなかった。  あかつき。  ドオウン。その気配を見た事のあるひとは知っているだろう。日の出以前のあの暁(ドオウン)の気配は、決して爽快(そうかい)なものではない。おどろおどろ神々の怒りの太鼓の音が聞えて、朝日の光とまるっきり違う何の光か、ねばっこい小豆(あずき)色の光が、樹々の梢(こずえ)を血なま臭く染める。陰惨、酸鼻(さんび)の気配に近い。  鶴は、厠(かわや)の窓から秋のドオウンの凄(すご)さを見て、胸が張り裂けそうになり、亡者...


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